「今年ももう終わっていくね。」なんて白々しく声がこぼれ落ちている。
そんな年の瀬。
喧騒な街並みも、次に来る日々を待ち望んでいるかのように、
穏やかにただ棚引いているだけだ。
年が終わる時、世界はまた一つ始まりに近づくような感覚が僕を虜にする。
ぼくは今日、タイムマシンに乗って、君の知らない世界で僕の知らない誰かと、
誰も知らない時間の中でさめざめしく泣いていた気がする。
鮮やかに白い光の粒がさんざめいていたあの修道院に、
どれだけの祈りが舞い降りているのだろう。
それはきっと1000年を生きた超人と指切りをするように果てしないほどに。
遥か昔か遠い未来かはよくわからなかったのだけれど、
開拓者たちが五体のみで命を削りながら紡いでいった道には、
パンドラの箱以上に、きっとドラマチックな憶いが立ち込めている。
城塞都市なんて言葉にするのは簡単だけれど、
汗と水が混じった土は、血みどろの泥に変わる。
人のため息も、馬の遠吠えも凡庸な空の色も一瞬で消えて、
底には深い希望が鬱蒼と老いゆく。
崩れ去りそうな思いも、溢れんばかりの高揚感も、
刹那に戸惑う由々しさも、すべてを飲み込んで、
ぼくは一歩、そしてまた一歩とあの日夢見た開拓者になるだろう。
ひとがひとの命を剥ぐのは案外簡単な世界で、
ひとがひとの命を育むのはとても難しい世界だから、
果てしなく広大な草原に草臥れたぼくは佇んでしまうかもしれない。
それでも、果てには涯てがあると思う自分がまだいるから、
この世界に紛争をなくす魔法のことばが生まれる、
正にその日まで、胸に静かな灯火を深々と積もらせていく。
東京支部
網倉 彩人